6/14GLF参加告知+ゆりくらふと増刊号全作品の個人的な感想

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まずはこちらの、八月生まれさんによる素敵な表紙をご覧ください。
2015年6月14日(日)にGirlsLoveFestivalに参加いたします。
「ゆりくらふと編集部」名義
スペースNo. キューズ32

となっております。新刊の海をテーマとした「ゆりくらふと増刊号」、2014年秋の文フリ発行・既刊「ゆりくらふと2」を持っていきます。
表紙イラストを目印に、ぜひお立ち寄りくださると幸いです。


※ゆりくらふとの告知サイトはこちら。増刊号の立ち読み、自家通販を含むゆりくらふと2の情報を入手できます。
百合アンソロジー「ゆりくらふと」/ 6/14 GLF14キューズ32「ゆりくらふと編集部」にて頒布します


さて、ここからは増刊号全作品の個人的な感想・もしくはレビューです。

何を言う:よしおか(@oszk_ni

「何を言う」は、流氷を題材とする研究所に勤める所長と、研究員が主要な登場人物です。この舞台設定に、私はまず惹かれました。研究所は閉鎖的なイメージを呼び起こさせ、人間の居住圏に迫る流氷は否が応にも圧迫感を持ちます。けれど、研究所を取り囲むのは崖を縁にした海であり、海はまた、別の不安を呼び起こさせます。
そんな、さまざまな不安がせめぎ合う本作ですが、ふたりの会話、正確には所長の口にする「虎」というキーワードがあります。「虎」、は小さな白いそれで、流氷に乗って海の向こうからやってくるのだと所長は語ります。流氷や崖や海や塩の浜に囲まれた閉鎖空間では、そんな言葉すらほんとうに起こりそうに聞こえる、そんな感覚を覚えました。
よしおか氏には今回、ゆりくらふとへはじめてのご参加をいただきました。この場を借りてお礼申し上げます。

大野の海:中野史子(@fin1219

この小説の情景描写は、中野氏のじっさいの体験に基づいて書かれていると言います。冬の日本海の風景だけでなく、女子高生の防水靴、人影の細い路地、1時間半に一度しか到着しないバス、描かれる事物にはどれも作者の目が十分に行き届いています。小説を読んでいて、知りたい、と思うことが即座に知らされる、そんな心地よさがこの小説にはあります。
さて、小説はふたりの女の子が一緒に過ごした1時間半を描きます。お互いの名前も知らない(訊かないままで終わる)彼女たちは、しかし確かに心を通わせてしまいます。むしろ、自己紹介をし、お互いのことを知ってしまえば、この小説に描かれた一瞬のような交歓はなかっただろう、とすら思わされます。海や町についての重苦しい描写裏腹、終わり方は、微かに希望の薫る爽やかなものとなっています。

はまなす:八月生まれ(@tett23

3人組という関係は、独特の緊張感を持っていると思います。人間は、じっさいのところ、1人と1人という単位でしか会話ができないからです。3人組の女の子の間の緊張感は、格別なものでしょう。
はまなす」は3人の女の子が、学校をさぼって6月の海へと小旅行へ行く話です。進路を決めなければいけない高校三年生という立場。そんななかで、3人の口にする言葉はときどき、誰が誰のものかも分からなくなります。疎外すら感じられるような空気がこの漫画には流れています。疎外感の与えるざわざわとした気分は、しかしとても心地よいものだったりもします。
なお、ここで言う3人の女の子とは、千世と由海と巴という、ゆりくらふと2「やることなすこと」にも登場した娘さんたちです。「やることなすこと」は小説でしたが、こちらは漫画。小説をお読みいただいた方には、ぜひ漫画を小説と照らし合わせながら楽しんでみてください。

オネストリ、お空で算数の多くは:飯塚距離(@kyollect

彼女の人気を考慮しても、私の身の周りには、不思議と時雨という艦娘を好むひとが多いです。一人称を含めた浮世離れした、しかし決して近寄りがたくはない静かな雰囲気がその一因なのだろうと私は勝手に推測しています。
さて、前回も素敵イラストとエッセイをお寄せくださった飯塚氏から、今回は艦隊これくしょんの二次創作をいただきました。登場する艦娘は時雨、弥生、朧、卯月、望月、菊月、まるゆ、三日月、白露、鳥海、時津風、最後にまた時雨と弥生。時雨の視点から語られる鎮守府、出撃、ドロップといった言葉は、しかしゲームとは違った意味を含んで、作品内の鎮守府同様、とめどない広がりを見せていきます。飯塚氏の鎮守府がどんな素敵空間なのか、入れ替わり立ち代わり現れる艦娘たちの目から覗くのは、とても楽しい体験でした。
なお、今回も飯塚氏の手によるかわいらしいイラストで飾られた表紙をいただいておりますので、こちらもぜひお手に取ってご覧ください。

あなたのいとしい:杜脇やさい(@yazusai

姉さんへ。入籍、おめでとうございます。

そんな衝撃的な出だしではじまる妹から姉への手紙、そっけないとは言ってもどこか拗ねたような口調で書かれる手紙を読んでいくうちに、私は自然と笑顔――というかにやついた顔になっていました。そっけない態度も、拗ねたような書きぶりも、妹が姉へ甘えているようで、どうにもほほえましく感じられたのです。
「あなたのいとしい」はそんな、妹萌えを百合のフィールドから描いた作品だと思っています。最後まで読むと、ようやく今このときの姉が顔を出すわけですが、ちょっとしたオチもまっています(というのはこの感想を読んでいれば)すぐにわかると思います。そうしたら、もう一度冒頭に戻って、オチへの伏線を探す。そんな楽しみ方もできる作品です。

そのときはもう一度好きを言うから:省子

私が書きました。なのでこれは自己紹介です。
まず題材は栄の2TOP。Rが卒業したあとの話、となります。私が書くと、どうにもこうにもRがしっかりし、Jが必要以上に泣き虫になってしまうようです。それは私がJRよりRJを押しているという事情もあるかと思います。
さて、この小説は、敬愛するさかもと麻乃先生の「もう好きなんて言わないから」。これは前向きには終わっても、痛みが残る作品です。栄において、2TOPのどちらかが卒業しても、きっとショービズ業界を離れないふたりでしょうから、どこかで彼女たちの人生がすれ違うことも幾度となくあるでしょう。さかもと先生の作品とは逆に、そんな瞬間が、ふたりが同じ舞台に立ったころの記憶を、なんのてらいもなく甘いものとして呼び覚ましてくれるとしたら、と、そんな思いをここに記しました。

(午後三時の助手席にて):ねむる(@houduki

無印の「ゆりくらふと」からの読者の方にはお分かりいただけるかと思いますが、ねむ氏の書く百合の魅力はなんといっても生活の中のしあわせな一コマを切り取る際の手つきにあると思います。そうしてねむ氏の百合には、しあわせなセックスのにおいが欠かせません。
今回は息子ひとりを伴ったふうふの、海からの帰り道のドライブが描かれていますが、ここにも、お互いに信頼し合った、理想的すぎるかというとそうでもない(それにしても、育児についてのちょっとしたいざこざにまつわる挿話のかわいらしいこと!)カップルの、お互いへのときめきを募らせる瞬間があります。読者の胸を高鳴らせる、まるで上質な少女漫画の一コマを眺めているような気分にさせてくれるお話です。あといつもながらエロいです。しあわせなセックスってこんなにエロいんですね……(しみじみ)(本番行為がないからこそのエロさです、念為)。


いかがでしたでしょうか。長くなりましたが、このレビューとも感想ともどっちつかずなエントリが何らかの参考になればと思います。