ゆりくらふと2全作品の個人的な感想

※ただしエッセイを除く
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第19回文フリでの頒布物より(3)小説---艦これトリビュート、METEOR EP、しあわせはっぴーにゃんこ、Liminality、ゆりくらふと2、甘受の才能 #bunfree - 書肆短評

ゆりくらふと2感想 - 自宅空友会
第19回文学フリマ収穫雑感: わなざう
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petunia:中野史子(@fin1219

はじめての彼氏ができた主人公が、初デートのために部活の先輩に改造するお話。改造される最中、デートに向かう途中で主人公は先輩に対する思いを自覚するわけですが、この改造の描写がとにかく細やかですばらしいです!こんな感じに……

 先輩はそう言いながら、ビューラーを手に取った。
「これでね、まつ毛を挟んでくるってさせるの」
「ぬ、抜けたりしないですよね?」
「大丈夫だよ、そんなに無理やりじゃないからはい。右をつむって」
 ビューラーを注意深く近づけ、まぶたに接触させ、私の量の多いまつ毛を挟む。軽く引っ張りながら、毛先へ向けて角度をつけながら、まつ毛の先へ向けて何度か挟む。

正直、女子としては読んでいて、先輩に対する敗北感を覚えました……先輩の女子力が高すぎます!つまり、それだけ小説に没入して楽しめたということです。勿論、細やかな描写は主人公の感情の変化にも十二分に生かされています。はっきりとは描かれない主人公の思いを、地の文で示唆されるヒントから読み取っていくのがとても楽しかったです。

まずは友達から:シノザキシノ(@cvegr

記憶喪失の主人公が、親友を作るお話。主人公は記憶喪失の状態で病院で目覚めたのに平然としていて、親友の彼女もメールの件数がやたら多かったりすこしヒステリックだったりと、ふたりともすこし不思議な女の子たちです。それでも、記憶喪失のくせにやたら落ち着いているというか、どっしり構えているというか、な主人公の視点を通して見ると、親友の姿がやたらかわいく見えて、ふたりがキスするシーンはにやにやマックス!になりました。ちょっとした(?)オチ、ネタ明かしも楽しかったです。それにしても、親友の真実をあんなかたちで知ってもやっぱりどっしり構えていられる主人公は大物だ……。

艦娘による永遠:シンジョウツムラ@eastmarl

ある鎮守府の北上さんとなんとなく調子の悪そうな大井っち、そして女提督のお話(艦隊これくしょん二次創作)。艦これですよ、艦これ!大北ですよ、大北!というテンションで読んでいるうちに、どんどん話の雰囲気に飲み込まれていきます。小説は大井の語りで進められていくのですが、随所に埋め込まれた結末への道標に、おそるおそるページをめくっていけば、やはり、と思うような結末にたどり着きます。そのころには女提督へ詰め寄る北上のひとつひとつの台詞が身に染みて感じられるようになり、結末は必然だったのだろうか?との疑問で、再び冒頭からページをくくりたくなる一作です。

遅刻車両:ばこ(@gmbko

20歳、留年5回目、の女子高生が煙草を落としたことで生まれた出会いのお話(漫画)。女の子に組み合わせるとアンバランスで意外性のある魅力が生まれるになるアイテムには、ヘッドホンや銃器もしくは重機などなどさまざまなものが思い浮かびますが、「遅刻車両」では煙草が取り上げられています。といっても、作品中に煙草を吸うシーンは実際に出てこないので、そのぶんなおさら、煙草を吸う女の子に対するフェティシズムが感じられます。そして、作品のもうひとつの柱は「サボタージュ」のように感じられました。サボタージュを繰り返すうちに5回留年、20歳。サボタージュの極地、女子高生の無気力のひとつを見たような気がします。

世界の終わりに立つ少女:いつか(@akatukistardust

無気力に冬の街をさまよう主人公が得た出会いの話。初読後の感想、もとい第一印象は、「xxxHOLiCっぽいな」でした。つまり、悩み事を抱えた主人公が綺麗なお姉さんに出会ってはじまる、ファンタジックな物語。で、この場合百合なのでお姉さんはふたり、対照的な性格と容姿をしていて、どちらも文句なしに美人。というわけで主人公はのぼせてしまうけれど、この混乱は長くは続かない。それだけ彼女の悩みは根源的なもので、彼女を「世界の終わり」へと連れて行ってしまう類いのものだから。でも心配はご無用、悩みを倒す手伝いは、お姉さんたちがちゃんと請け負ってくれる。主人公と彼女の悩みに、優しい解決がもたらされるような完結も用意されています。

甘露と日和:理乃

妹を欲しがった主人公と、彼女の妹のお話。姉妹百合の、マスターピースとでも言うべき作品です。おとぎ話のような地の文のどこを抜き出してもきらきらと輝いて声に出して読みたくなるけれど、私には、なかでもこのセンテンス、

 妹とは、あとに生まれる人間のことである。妹だけでなく。この世すべての人間はわたしにとって、わたしより先に生まれたかあとに生まれたかまだ生まれていないか、それだけの存在でしかないのである。

壁に飾っておきたいとすら思わせられるような、また、

 わたしの両親に聞くところによるとさかのぼること十年と五年前、七日六晩おねがいおねがいと泣き続けほしいほしいと喚き続け両親をたいそう困らせた七つのわたしによる天災のような駄々は七日目の晩なぜか突然にやみ、小さなわたしは喚く代わりに椅子に座り、駄々ではきかないので願うことをし、涙の代わりに文字を落とした。

言葉はいらない、と思いました。もしくは語るべき言葉がない(感想のくせに)。姉妹百合――姉妹の関係についての、究極の場所、を見たのだと思います。

結晶成長の古典的描像について:murashit(@murashit

とある場所で暮らす主人公の航海日記。文字通り日記として書かれた小説なので、描かれる日常は主人公にとっては繰り返される日々でも、読む側にはわからないことばかりで興味深くぐいぐい引き込まれていく。もっとも、ある日の日記にしては散らかっているような印象もあって、これは、日記が書かれた日が主人公にとって特別だから、だそう。ちりばめられたSF的なキーワードやら引用やらが一丸となって、すこしふしぎどころじゃない、かなりふしぎな雰囲気をかもしだしていて、よくわからないところもあるけれど、それを理解するために読み返すだけの価値はある、と思わせてくれます。あとヤマノススメのレビューはいろんな意味でおもしろかったです。

やることなすこと:八月生まれ(@tett23)/扉絵:ハサミヤ

千世と由海と巴という三人の女の子のお話。千世は転校生で、由海の部屋で毎日手作りのお菓子を振る舞われている。由海の幼馴染み、巴は由海のために浪人して同じ年に高校に入った。そんな三人の関係なのだけれど、この小説を一口に「転校生と幼馴染みふたりのお話」とか「幼馴染みふたりのもとにやってきた転校生のお話」とか言ってしまうのには抵抗があって、というのも、この三人の女の子の関係は入り組んでいて、最終的に、思いもしない場所に着地するからなんだと思います。文章量の多い小説で、そのぶん、日常や女の子たちの肌感覚の描写は地に足がついていて、しっとりとぜいたくな印象を受けました。

ボルタ―ネーム:飯塚距離(@kyollect

名前に関するエッセイ。飯塚氏は、詩を書く方にこんなことを言うのも失礼だと思いますが、言葉の音というものにとかく敏感な方だと思っています。加えてその音が表すものについても、また飯塚氏は絵を描かれるので、文字の見た目、点と線についても。

「と(&)」、プレッツェルの片割れのようなこの記号は、カップリングという物思いを始めようとするときにはきっと、慣習によってだけ起こるのではない胸の大騒ぎの、最初の騒音を手伝う一枚になってくれたりもする。

というわけで、「ボルタ―ネーム」というエッセイでは飯塚氏が「名前」について遊んでいます。言葉と音と点と線の間を飯塚氏は自由に飛び回っているように見えますが、勿論その遊びはただならぬものです。けれども読み手に見えるのはあくまでも軽やかな流れで、押しつけがましさのない、ともすれば目を遊ばせるだけ遊ばせて通り過ぎてしまうこともできるなかに、想像も付かないほど豊かなものが流れているのだと思います。

bleed my blood:白日朝日(@halciondaze

不安になると手首から血が溢れ出す体質を持った主人公と、その親友のお話。主人公の名前が青猫ぴりりで、親友は犬塚しろ。名前に慣れるまでにすこし時間はかかりましたが、ストーリーの焦点ははっきりしているのでとても読みやすかったです。変わった響きの名前や手首から血が出ることはたぶん、ほんの些細な雰囲気を盛り立てる小道具で、でもそれらと同じくらい些細なことをきっかけに不安は生まれてしまいます。不安なんて日常の中にありふれていて、手首からの流血を包帯で押さえ込むことなんてとてもでないけれど不可能なわけです。では、主人公はどうするのか?ふたりの関係はどうなるのか?答えはすごくシンプル、だったのでした。

dear signal:すい(@sui_rh

好きな相手が彼氏に振られたことで逆に悩むはめになってしまう女の子のお話(漫画)。主人公が好きな相手は思ったことをすぐ口に出す、表情がくるくる変わったり、また付き合った彼氏ともけっこうすぐ別れているようなのだけれど、主人公は主人公で、口や表情にこそ出さないけれど、考えていることがくるくる変わるのがとってもかわいいです。まさに思春期、といった感じのこのぐるぐるが、最後には親友のぐるぐると重なってしまいます。重なったことで起こる出来事がまたなんとも甘酸っぱくて、見ているこっちとしては悶えるほかありませんでした。グラウンドのトラックで並んで走って、まさかあんなことになるなんてね……まさに青春!

前夜:こすひな(@coshina

ある鎮守府の、練度の低い日向と練度が高い伊勢のお話(艦隊これくしょん二次創作)。タイトルの「前夜」には、いろんな意味が込められていました。なかでも、前夜という言葉を私は小説のなかで心に残った風景と結びつけました。夏の夜、ひとりが波止場のはずれに腰かけ、煙草を吸いながらもうひとりを待つ。彼女の胸中には、爆発せんばかりの思いが詰まっている。そんな場面がこの小説には登場するのだけれど、感情が噴き出すと分かっているからこそなんとも切なく、ここにもまたひとつの小さな前夜があるのでしょう。つまり、やがて明らかにされる感情と、明らかにされない思いのための「前夜」が確かにあったのだと思います。

あなたの隣で、:ねむ(@houduki

同居している主人公とその恋人の、ある金曜日の夜のお話。小説に描かれているのは、恋人どうしなら誰もが一度経験したことがあるかもしれない日常です。突然の外食とか、ちょっとしたじゃれあいのような会話とか、休みのスケジュールが合わないとか、明日は仕事があるからセックスはしないで我慢するとか(この未遂がまたエロいんだ!)。そんな日常の出来事を、甘く明るく、社会人百合カップルのお話として読めるのがとても幸せな作品です。お話のなかから、幸せをおすそわけしてもらったはずなのに、その幸せがとても大きくて、ああ彼女たちは満たされているのだなあ、とこちらも満たされてしまうような読後感を覚えました。

過去からのケーキ:少色(@syousiki

同居中の恋人を動揺させた結婚式の招待状の、送り主に主人公が喧嘩を売りに行くお話。この小説には、三人の女性が登場します。主人公は大学生。その恋人はゴシックロリータファッションを好むアクセサリー作家。そして結婚を控えている、恋人のかつての親友。立場も性格も違う3人ですが、主人公と恋人のかつての親友が邂逅することで、物語が生まれます。主人公は恋人の現在を知っていて、かつての親友は同じ人物の過去を知っています。ふたりが語り合うことでひとりの女性の肖像が浮かび上がり、と同時に、3人ぶんの思いが丁寧な手つきで解きほぐされていきます。結末もまた綺麗にまとまった短編でした。