カプ厨的映画『キャロル』の感想

百合を見に行ったらBLだった

原作は作者の自伝的小説かつ若書き。舞台は1950年代アメリカ。キャスティングルーニー・マーラケイト・ブランシェット。あと百合。その程度の前情報で見に行ったら図太いショタとスーパー攻め様というコンビのBLだった。
というところの『キャロル』。話自体は完全なる恋愛ものであって、ルーニー演じるデパートガール・テレーズにケイト演じるセレブ主婦・キャロルが迫りまくる。そしてふたりでアメリカ横断旅行なんぞやってのける。はー、百合だけどBLだ、そんな感想になるのも仕方がない。とくにタイトルでもあるキャロル様のスーパー攻め様っぷりがものすごい(後述)。
で、女性映画としての一面をもちつつ*1*2、原作や美術や衣装がすばらしいことになっているだけに、芸術性の高い感想がやたら取りざたされてますが(C/Rの展開の盛り上がりもすごいしね。)、大団円で終わっているだけあって、映画本体だけでもカプ厨が十二分ににやにやできるものになっている。かくいう私も、鑑賞中は「背景知識についてもっと予習しておけばよかった」と後悔したけれども、映画館の中が明るくなるころにはなんだかにやにやしていた。にやにや。なのでこの感想は主にカプ厨がにやにやしたところをピックアップしていくカプ厨の気持ち悪い文章です。それ以外のものはないのでよろしくです。

キャロル様はスーパー攻め様

スーパー攻め様ってクズよね(挨拶)。あ、ご挨拶遅れましたが私こういう者です。ええ、ええ、クズキャラってすばらしいと思いませんか……おや、あなたも……?
そんなクズ好きにおすすめのキャロル様(?)。映画を見終わってから、改めて計算してみてまずびっくりしたのがその手の早さです。なんせ、キャロルがテレーズに手を出すまでに、ふたりの出会いから1ヶ月も経っていない。そしてふたりでの旅行が始まってからは1週間しか経っていない。驚愕の手の早さ。これはクズがキャロル様であることを認めざるを得なくなる……うん?
とはいえ、それだけではスーパー攻め様認定をするの早計かもしれないので、ここでキャロルのスーパー攻め様たるゆえんをまとめてみると、

  • 手が早い
  • つばをつけるのも早い
  • 煙草が精神安定剤
  • 職業:セレブ主婦(離婚調停中、4歳のひとり娘を溺愛)
  • 元カノ(幼馴染)持ち。なにかあると元カノのところに行く。なにかあると元カノを家に呼ぶ
  • でも口では「とっくに別れた」とか言う
  • 今カノ(未満)がカメラ趣味と聞くやいやなやカメラとフィルムをプレゼントする
  • そのカメラを緩衝材も包装もなしでフィルムといっしょにアタッシュケースに入れた状態で持ってくる
  • 今カノに自分の香水をつける
  • 今カノに自分の香水をつけたあと、自分にも同じ香水を元カノの手でつけさせる
  • 今カノに自分の香水をつけたあと、自分にも同じ香水を元カノの手でつけさせたあと、香りを嗅がせる
  • ひとりで運転するのが嫌い
  • ひとりで運転するのが嫌いなので元カノに送迎させる
  • 元カノに今カノを迎えに行かせる(シカゴ←→ニューヨーク間。往復の運転距離を考えると……?)
  • あの手紙

「あの手紙」は映画館で確認していただくとして、個人的には、「ひとりで運転するのが嫌い」なのが特に心にひびいたところ。そのことを元カノは知っているけれど今カノ(テレーズ)は知らない、というのもにくい。精神安定剤の煙草は、時代背景が時代背景だけあって、登場人物がみな喫煙者なのだけれど、キャロル様の場合は、状況が状況なので、いらだってハンドバッグをかき回す場面が何度も登場してときめきがいや増す*3*4
ここでキャロル様の元カノことアビーの話をしておこう。アビーはキャロル様の元カノ兼幼なじみなのだけれど、このポジション、どうしてもBLor百合ではめちゃくちゃいいキャラになってしまう……というのはみなさんご存じだと思う。アビーもご多分に漏れず、キャロル様を気にかけるだけでなくテレーズにも気を遣うおひとなのである。夫とうまくいっていないキャロル様も送迎させるだけでなく、なにかあると会いに行く生活を送っていたらしい。その結果、娘さんまでがアビーにむちゃくちゃなついている。ついでに今カノとのごたごたがあったときもキャロル様が頼るのはアビーである。それはいくら「もう別れた」と主張しても夫のひとも疑ってしまうよキャロル様……。旦那さんへのこういう扱いも攻め様だよキャロル様……。

テレーズの生き方

映画の主人公であるテレーズ。茶色いボブカットにヘアバンド。ベッドシーン、文字通りのベッドシーンでは、彼女の髪束が白いシーツに散らばる様子がなんとも魅力的だった。キャロル様の目力は雄弁に語るけれども、テレーズの瞳は静かに語りかけてくるのだ……(?)。
さておき、公式サイトのストーリー紹介には、「自分が何を本当に求めているのか、真実の自分に向き合えない」、との言葉もあったのだけれど、実際の映画を見てみるとその印象は覆される。というか、そんな印象はなかった。
作中、テレーズの自己評価は「優柔不断」に近い。序盤、キャロル様とのランチでは、自分でランチに食べたいものも決められない、と自嘲するし、プロポーズされているという恋人のリチャードへの態度も決めかねているようにみえる。けれどもそのわりにテレーズは図太い。男子との争いごとを難なく切り抜けるさまを見ていると、いままでにもこんな場面を何度も経験してきたのだな、と否応なく思わせるなにかがテレーズにはある。テレーズは決して単なる優柔不断な娘さんではない。なにより、あのキャロル様の目力と向き合って、彼女は一度も視線を逸らさなかった。
で、この図太さが、なんというか、私にはどうにもショタっぽく見えてしまったのだ。*5じっさい、テレーズの髪型や服装は(特に映画後半は)オードリー・ヘプバーンを意識した?中性的なものになっていく。それが、キャロル様を見上げる、考えの読めない瞳と相まって、独特の存在感をかもしだしていた。
で、考えが読めない、といえば、テレーズの考えは映画中盤になるまで、ほんとうにわかりにくい。シチュエーションとして、ここでテレーズがキャロル様にときめいたのだろうな、と推測できる場面は存在する。しかし、ふたりの旅がほんとうにはじまってからでないと、テレーズがキャロル様のことをどう思っているのかがわからない。だからこそ、テレーズがキャロル様のことをどのように気にかけているのか、が分かった瞬間のカタルシスは、それはもうたいへんなものだった。
キャロル様へのテレーズの思いにも関連して、ルーニーが演じたからこそかもしだされた、テレーズの意思の強さ――ほんとうに「図太さ」と私は言ってしまいたい。この図太さのおかげで、キャロル様がスーパー攻め様なのはそれはそれとして、キャロル×テレーズのみならずテレーズ×キャロルの可能性も私には見えた*6。だからこそ『キャロル』という映画がいっそう魅力的に思えた。
ちなみに、『キャロル』のファッションの話をしておくと、私はどちらかというとテレーズのほうに惹かれた*7。特に映画終盤の、襟元に黒いラインがついた黄土色のブラウスがものすごくかわいかった。あれは普段使いできるやつだと思った。自分には決して似合わないけどw

百合恋愛映画としての『キャロル』

長くなってしまったけれどもこの項目が最後。冒頭でも言ったけれど、『キャロル』のエンディングは大団円。安心して映画の中のあんなシーン*8やこんなシーン*9やそんなシーン*10を思い返してにやにやすることが可能である。ただ、『キャロル』を心地よい百合恋愛映画にしている要素はもうふたつある、と私は思っている。
ひとつは同性愛への視線。大きく出てしまったけど、ようは1950年代の話ですよ。最近だと『エニグマ』なんかで非常に顕著だったのだけれど、同性愛が治療されるものだった話。けれども島国とは言えヨーロッパの一員のイギリスとは違い、そこはやっぱり合衆国、しかもニューヨーク。同性愛の治療はセラピストによるものだし、キャロル様と義父母とのお堅いランチでもなんとかニュートラルに話題に上らせられるもの。キャロル様本人にも、テレーズにも抵抗はまったくない。加えて、若い世代であるテレーズの元彼――名前覚えてます?リチャード――も、テレーズに「女学生」のようだと言ってはみるものの、さしたる抵抗感を示さないのだ*11
もうひとつは男どもの話、同性愛への視線にも関連してくるのだけれど、キャロル様の元夫のハージも、テレーズの元彼のリチャードも、決して悪いやつらではないのです。なんというか、どちらも、キャロル様とテレーズのことがなかったとしても、ひいてはキャロル様とテレーズが同性愛者じゃなかったとしても、彼女たちと別れざるを得なかった予感がある。とくにリチャードについては、相性というものを考えさせられる別れ方だったね……。ともあれ、そんな男どもの立ち位置とほどよい出番がまた、『キャロル』をストレスフリーな百合恋愛映画にしていたのかな、などと。

こんなんで

百合映画の感想を終わらせるってどーなのよ!とは思うので私が一番萌えたシーンを挙げておくと、

  • テレーズ:"Do you feel safe? With me, I mean?"のあと、キャロル様と同じ部屋に泊まろうとする
  • キャロル:テレーズと出会ってから最初のランチで使った口説き文句を最初のセックスでもう一度使う

でした。ではでは、来週は『忌まわしき花嫁』でお会いしましょう!(会わない

*1:BAFTA取れなかったことでレヴェナントと比較されたこともあってクラスタが「男の視点がないと賞レースに勝てねえのかよ」って燃え上がってますね。カプ厨としては萌えられればなんでもいいんで、そーゆーのは冷めた目で見ていたり……。

*2:これも後述するつもりなのだけれど、個人的には『キャロル』の主義主張が前面に出ていない、あくまでも恋愛映画の気持ちよさを作ることに徹していたところがストイックで気に入ったので。

*3:キャロル様がテレーズの煙草に火をつけるシーンもちゃんとあるよ!

*4:なお離婚調停相手の旦那さんはアルコールに逃げている模様。

*5:キャロル様が30代で、テレーズが19、という年齢設定――原作小説からの引用なので映画でのそれは不明。パンフレットを買っておくべきだったね――も関係あるかな。

*6:みんな見てるよ。

*7:キャロル様のミンクのコートなんかは、もう、ファッションの次元超えてたね。中学生のころからずーっと言ってるけど(フランチェスカ・リア・ブロック)、いい加減『ヘドウィグ&アングリーインチ』を見なければならぬ……。

*8:ピアノを弾くテレーズの背後に自然に忍び寄るキャロル様。

*9:ルート確認のためにモーテルの食堂で同じ地図を見ていちゃいちゃするキャロル様とテレーズ

*10:キャロル様との予定を手帳に書き込むテレーズ

*11:じっさい、年の差的にはリチャードはある意味正しい気がする。彼女がいきなり30代の男とつきあうと言い出したら、それだって同じような展開になる気がする。