お金持ちについての本とお金持ちへのコンプレックス
- 作者: 山脇道子
- 出版社/メーカー: ダイヤモンド・ビッグ社
- 発売日: 2017/08/03
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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旅行記を読むのが好きで、大学生のころ、図書館であらゆる紀行本を借りて読んだものだ。だがそのうち気付く、オシャレなイラスト入りの、アジア諸国(特に東南アジア)の紀行本は、貧乏人の読むものではない。
考えてみれば、当たり前の話だ。うまくもまずくもない、かわいらしいイラスト(場合によっては、著者の出身大学が多摩美、とか武蔵美、とかだったりする)がふんだんに盛り込まれ、つやつやする紙にきれいな装丁でまとめられた旅行記は、同人誌のようなもの。ホテル紹介で、五つ星(ヒルトン、リッツカールトン、グランドハイアット)ばかり並ぶのは当たり前。一生に一度泊まれるかどうか、というスイートルームの内装を見せられても、ため息ひとつ出てこない。
比べてみれば、ガイドブックと旅行記の中間にあるこの本はまだ控えめで、セレブ要素としてはスポンサーと思われる飛行機会社のファーストクラスが紹介されているくらい。そもそもLAは物価が高いから、浮かれた学生以外でアメリカ旅行に赴く人間は、ある程度の金を持っているんだろう。また、作者のなんとも微妙な顔出しの仕方は、インスタ時代以前の、古い人間を思わせる。完全には顔出ししないのね、インターネットよりも狭い範囲の人間にしか届かない本だろうに、と彼女の年齢を想像してしまった。
と、天邪鬼なことを書いてはみたものの、読み物としては十全に楽しんだ。アイスクリームのお店がやたらたくさん載っており、なんならアイスクリームのサイズがおかしいアメリカンっぷりは笑えたし、リア・ブロックのファンとしては、ベニスはもちろん、アナスタシアや、グリフィスパーク、もホーク、ウェイストランド、The Raven Spa(読み方はレイヴンじゃなくて、ラベン、と記されていたけれど)あたりの固有名詞がうれしかった。また、Gjusta(ジージャスタ)なんかも、いかにもリア・ブロックっぽい雰囲気だ。もちろんピンク・ホテルは大きく取り上げられている。
ひとつ驚いたのは、メルローズが地名だったこと。今の自分にとっては、メルローズといえばパトリック・メルローズで……と思いWikipediaにお伺いをたててみたところ、ハリウッド・メルローズ・ホテルに見覚えがあって、もう一度驚いた。
- 作者: ラファエル・ナダル,ジョン・カーリン,渡邊玲子
- 出版社/メーカー: 実業之日本社
- 発売日: 2011/09/30
- メディア: 単行本
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有名アスリートの中には、貧困や逆境の中で育ち、強烈なハングリー精神によって富や名声を求め、這い上がってきた人々も多い。あるいは、アンドレ・アガシのように、親が子どもに経済的な成功を期待し、小さい頃から有無を言わさずある競技を教え込まれたプレーヤーもいる。だが、ラファエル・ナダルやその家族は彼らとはまったく違う。経済的にも恵まれ、家族みんなからペットのように可愛がられて育った子が世界一のアスリートになるのは、ある意味、もっと難しいのかもしれない。
本書は日本では2011年、ナダルが25歳にしてグランドスラム10回優勝を達成したのち、日本で出版された。そして、2018年のいま、私は、訳者のこの言葉が幻想だということを知っている。家庭の環境が金銭的・精神的双方に恵まれている場合、アスリートは、おそらくもっとも成功しやすい。そんな2018年の常識の好例に、図らずもこの本はなっている。行間からにじみ出る、固い絆で結ばれた裕福な一家の姿は、虚構じみてすらいる。
テニスについていえば、印象的な描写としては、やはりナダルが自身の年齢的限界を何回も強調している箇所になるだろう。2011年で、フェデラーは既にベテランの域だった。ジョコビッチは新星で……あれから7年、未だにこの2人(そしてマレー)が世界ランキング上位に君臨しているのは、ちょっと意味がわからないくらいだ。ていうか2018年から見るとますますフェデラーの強さが意味分からん……WikipediaでBIG4とフェデラーvsナダルの項目を改めて読み直してしまったじゃないか……。とまれ、本書はよく編集されていて、翻訳の質も高く、テニスのルールは少ししか分からないけれど試合を眺めるのは好き、という私にも読みやすかった。ちなみに、テニス・ライターが書いたフェデラーとジョコビッチの伝記的な本はそうでもないらしいから、我ながらよい選択だったんじゃないかと思う。ジョン・カーリンの手がけた他の書籍(「二人のマンデラ」「インビクタス」「白の軍団」)も、あとで読むリストに入れておくことにする。
ところで、Amazonレビューを読んでみたら、「大人が望む若者の理想の形」というコメントが残されていて、すこし笑った。日本でのナダルのファンの年齢層に、つい思いを馳せてしまう。次はジョコビッチの食事本でも読もうかな。