22/7がアニメ化してよかった

(22/7の話がはじまるまで無駄話が3000字弱続く)

好きな作品のアニメ化を思い出してみる

幸腹グラフィティ(2015年)
艦隊これくしょん -艦これ-(2015年)
緋弾のアリアAA(2015年)

2015年は、好きな作品が3作もアニメ化された年として記憶されている。
原作メディアはそれぞれゲーム、オリジナルコミック、ライトノベルのスピンオフコミックのちライトノベル化と異なる。

幸腹グラフィティのアニメ化はまずまずの成功だったと思う。制作会社はシャフトで、音楽の担当はコトリンゴ。食べ物に関する贅沢な描写。『衛宮さんちの今日のごはん』を思い出してもらうと雰囲気がわかりやすいかもしれない。一方で、料理研修が再現料理ブロガーなのはさておいても、BD・DVDの初回特典の料理カードは、番宣担当による上手と下手の間を絶妙に泳ぐ料理の写真(料理と写真)が貼り付けられていて、微笑を誘った。
でも、クオリティの高いアニメそのものよりも、私にはなんといってもEDが主人公リョウと親友きりんのデュエットであることがうれしかった。名義が「リョウときりん」でカップリングみたいだし、CDのカップリング2曲(劇中挿入歌)も勿論ふたりのデュエット!きらら系原作にありがちな特徴として、原作からして主人公はいろいろな女性にいろいろな方向でモテでいたので、これは本当に望外の喜びだった。シャフトの作る百合アニメは、固定カップリングしか愛せないカプ厨にやさしい、気がする*1
思い出すのは、松来未祐さんのことだ。きりん役・大亀あすかさんのファンの私は、2015年春に行われたアニメのイベントに参加する僥倖を得た。出演者は佐藤利奈さん、小松未可子さん、井口裕香さん、MC役の野中藍さん、松来未祐さんという豪華な布陣だった。大亀さん……亀ちゃんの身長が小さいこともあり、佐藤・小松・井口各氏のスタイルのよさとか*2、背もたれのない椅子に腰かけて足をぶらぶらさせる亀ちゃんを比較的前方の席ではらはらしながら見守っていたこととか、あいぽんのまとう可愛らしい雰囲気とか、そういったこともよく覚えている。でも、なにより、あのとき松来さんを見た、たしかに見た。グッズ販売で、ランダム商品の缶バッヂを2回引いて、松来さんが声を当てる椎名の母が2つ当たったのを、今も捨てられないでいる。
だからアニメとしての印象は、少し薄い。

艦隊これくしょんは、叩かれに叩かれた。水上を滑るように進む艦娘たちは「水上スキー」と揶揄されたし、原作ゲームの短く乏しいボイスと僅かでも離れた振る舞いをすれば批判の的となった。アニメの主人公に選ばれた――いや、そもそもゲームのメイングラフィックスの中心に置かれ、公式主人公としてはじめから設定されていた吹雪すら、陰の薄さを嗤う「ふぶなんとかさん」という蔑称を囁かれた。なんにせよ、「なかったこと」扱いされていないのが不思議なくらい叩かれた(あるいは、劇場版アニメがまずまず受け入れられたからかもしれない。ただし、艦これアニメが語られるときに劇場版を思い出す向きは少ない)。
私は艦隊これくしょんのアニメを愛していたのだと思う。これは、特に好きな艦娘(潮、瑞鳳、阿武隈)がアニメには登場しなかったからかもしれないのだけれど……でも、やっぱり愛していた。未だに愛している。水上を進む艦娘たちは文句なしに格好良かったと思えた。ゲームで見慣れた顔を見せてくれたながむつや川神のいちゃいちゃっぷり、雲の上の人としか思えない赤城、箱入り娘の大和。一方で、ゲームでは知る由もない顔を見せてくれた面々――二次創作で散々きらら作品みたいに描かれてきた第六駆逐隊の実際を初めて知ることができた。水雷戦隊、もとい、駆逐艦を教導する軽巡洋艦を初めて目にすることができた。なかでも、吹雪を励ます金剛の姿は、あの「マリア様がみてる」の佐藤聖さまを思わせる剽軽さと包容力に満ちて、ゲームの「提督LOVE」な姿から想像もつかない解釈がとても好きだった。
吹雪・睦月・夕立の主人公トリオの中で、私は他のふたりから際立つ夕立の圧倒的な美少女感が好きで、また、美少女であるがゆえに吹雪と睦月の間にうまく入れない描写も、さらに夕立の美少女っぷりを際立たせていた。
そうだ、艦これアニメは、近くにいながら遠い関係を描くのが最初から上手だった。

緋弾のアリアAAのアニメ化は、まるで夢みたいな出来事だった。アニメ、ではなくアニメ化。このブログにも当時の興奮が残されているけれど、私は、実際にはアニメを最終話まで見られていない。BDの初回限定版を買い揃えたけれど、封を開けていない。それはありがちなことだとして……。
2015年、百合姫はまだ奇数月発行だった。つぼみはとっくに、ひらりもすでに休刊、早川書房は勿論、まだ百合に目をつけていなかった。「顔がいい」だの「巨大不明感情」だの言い出す人間が存在するはずもない。
アリアAAの立ち位置は微妙だった。原作は男主人公のハーレムライトノベル*3、それだけで百合好きにはそっぽを向かれる代物だ。あの頃(いまでも)百合好きは誰も彼も過敏で、過敏であることを誇りにしていた。でも、一度ページをめくれば、そこはお色気多めのキュートな百合ラブコメが広がっていた。大体の人間の好みに合うキャラクター・カップリングが揃っていた。あと、ヤングガンガン連載だったので、咲-Saki-ファンにはある程度知られていたんじゃないか……と私は信じている*4
ちなみに、緋弾のアリア本編のアニメは、釘宮理恵ツンデレが一世を風靡したころに作られた。正ヒロインのアリアはピンク髪でCV釘宮。目立った評判は聞こえてこなかった。なので、いくら原作がMF文庫Jというレーベルでの人気を誇っていようが*5、そのスピンオフ・しかもきらら系ではないがっつり百合作品*6がアニメ化されるとは思えなかった。だから、夢。
肝心のアニメの印象は、やはり薄い。原作からアレンジされたストーリーはともかく、痒いところに手が届かない感覚ばかりが残るもので、話題にものぼらなかった。盛り上げようと自分なりに明るく感想を書き、すぐに挫折した。5年後の今、「緋弾のアリアAA」で検索すると、真っ先にパチスロの話題が画面に映る。
私だけは覚えておきたい、とアニメそのものに対しても思えなかったし思えない。好きで居続けられなかった自分を、未だに責め続けている。

2019年9月20日

22/7の2ndアニバーサリーライブで、アニメの第1弾キービジュアル・PVが発表された。

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嬉しさ半分、キービジュアルの滝川みうが見せる表情同様の不安が半分。待つ3ヶ月間はあっという間だった。スタッフリストを見ても、いまいちピンとこなかった。タイムラインを流し見ると、堀口悠紀子のキャラクターデザインではないものがアニメに使われることへの戸惑いの声が目について、慌ててブラウザのタブを閉じた。インターネットで嫌というほど傷ついた2015年をすぐに思い出した。
意志が弱いと笑えば笑え。でも私はやっぱり、インターネットには好きなアニメに対するポジティブな声に溢れていてほしい。そうすれば、新しく作品に触れてくれる人が出るかもしれないと期待しているから。
そうしてようやく、「アニメ化してよかった」と言える。
こんな考え方は、きっと全体主義的で、批判を許さない最悪なオタクのものだと知っている。

2020年冬クールの3ヶ月間、毎週土曜日のTOKYO MX23:00、全話リアルタイムで視聴し終えた*7。となりで一緒に見る人間が「暗いから新しいファンが入ってきにくい」「演出もスタッフも目指すところがよくわからない」「そもそも古臭い」と言うのをすこしイライラしながら聞いて、実際に言い返したけれど、効果的な反駁はひとつもできなかった。確かにキャラソンはみうちゃんの以外古臭かったし*8、画面はずっと暗かったし、同じクールに明るい画面づくりのアイドルアニメがあったから差別化はできてたと思うけど、せっかくみんな同じマンションに引っ越したんだし*9きらら系みたいに明るい話も見てみたかった。

22/7がアニメ化してよかったのか?

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自問へのポジティブで確信ある自答はまだできない。

恋を語る詩人にはなれなくて

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*10
22/7のアニメ本編のどこが古いのか、具体的に説明することは私にはできない*11。代わりに、私にとって印象深かったのは、このアニメでは過去が語られっぱなしに見えたことだ。
語られっぱなし、というよりも、描写されっぱなし、のほうが正しい表現かもしれない。個別エピソードのモノローグはあまり饒舌ではない*12。しかも、メンバーの過去は、勿論それぞれの人格形成に大きく寄与しているのだけれど、物語の序盤から伏線をはられていたニコル→みうのラインでさえ、お互いの間に共有されない。
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ストイックでよかった……と素直に言ってしまえば、心の中の欲求不満に嘘をついてしまうことになる。それこそ、上に挙げた3つのアニメの濃密な感情のやりとりに比べると、演出がやたらひりついているぶん、物足りなさと肩透かしばかりが残る作品だ。
一方で、「人間ってそんなもんだよな」とも思う。
いくら1年間苦楽をともにしてきた間柄でも、内面に長年の間(なんなら、人生と同じくらいの間)抱えてきた重いものを共有しない。グループが分解されてしまえば、解散の気まずさも手伝って、連絡を取り合うことすらしない。現在と過去の間は、連続しているようで、飛び石のように断続してもいる。

そう考えてみると、私の推しであるところの立川絢香嬢はアニメで、終盤に物語が個人の事情から主人公とグループ全体を言葉で激励するよい役割をもらっている*13
22/7というアイドルグループでアツい魂をむき出しにした奴らはセンター・滝川みうを筆頭に口下手で、リーダー・佐藤麗華は優等生キャラに見えてライブのMCで口ごもるし、盛り上げ役の関西人・河野都の言葉は8割がた上滑りして突っ込まれている。アニメの、人当たりがよくてふわふわやわらかい、笑顔が可愛い藤間桜はみうに寄り添うという役割がある。
戸田ジュンちゃんは子供すぎるから論外*14
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で、クール側に立つ3人のうち、ロボット風少女・丸山あかねはなんだかとんちんかんだし、ニコルはラスボスかつアイドルにアツい情熱を捧げている。というところで、9話にして狂言回しの白羽の矢が立ったのが絢香だ。
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本業漫画家だからなのかどうか、絢香は「滝川」だから「クリステル」とか、女王様みたいだから「エリザベス」とか、フィクションのキャラ付けっぽいあだ名でメンバーのことを呼ぶ。
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温泉の脱衣所ではひとりだけ輪に入らないし*16、ニコルすら燃え上がる*17くだらないトランプ対決にも参加せず、ひとり壁際でタブレットに向かう。
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「ばーか。誰一人欠けてもだめ。私たち、8人揃って22/7だろ」
ただ単に、クールなキャラクターが変節を見せたというシーンではない。この娘さんは6話でも水着NGな佐藤リーダー相手にポエムを詠んでいる。単なるポエム好きか?
当番回なのに、絢香のモノローグは状況説明に留まる。過去の自分の感情を分析することこそあれ、今の絢香の言葉が、彼女の内心をどれだけ反映させるのかわからない。
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「ひとりが好きで、ひとりが嫌いで。しっかりしてて、だらしなくて。頭よくて、頭悪くて。強くて、弱くて」
家族や友人とのエピソードに様々な表情を見せるメンバーの当番回を見てきた視聴者としての私は、むしろ、画面の中の彼女たちよりも彼女たちのことを知る立場にある。それでも絢香の言葉の真意は読めない。みうにどこまで伝わっているのかも。不意に、画面の中で、『シャンプーの匂いがした』と言えそうな距離に立つふたりと同じくらい、なにもわかっていないことに気づく。
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それでもみうは絢香の言葉に動かされた。繋がってるんだか途切れているんだかわからないあなたとわたし・現在と過去。

正体不明のなにかに見つけられるまで、『僕は存在していなかった』かのように振る舞っていた。
近くにいる人間の嘆きや痛みすら知らないから、『何もしてあげられない』。
人生は長くて、生きていくことは『ムズイ』。
それでもお互いがお互いの『理解者』であればいいという希望の上に、アニメ22/7の心の交流は成り立っている。

……うん、22/7がアニメ化してよかったんじゃない?

*1:幸腹グラフィティ」「ささみさん@がんばらない」のサンプル数2、だけど。「ひだまりスケッチ」は……軽々しく語るのを阻むなにかがある。

*2:亀ちゃんは亀ちゃんでご存知の通りのトランジスターグラマーである。

*3:断っておくと、偉人の子孫(だいたい少女)が登場しては主人公に惚れていくこのライトノベルは非常に読みやすく面白く、私は原作者の赤松中学のファンである。詳しいことは覚えていないが、アリアAAよりも先に本編を読んでいたはずだ。一番好きなキャラクターはかなめ。AAのかなめ編、アニメで見たかった……。

*4:ヤンガン、昔から謎に百合漫画が多い素晴らしい雑誌だ。

*5:2019年6月時点で累計850万部を売り上げている。

*6:アニメ化される部分ではないが、タチとかビアンとか女相撲とか女体盛りとか出てくる。

*7:これはどちらかといえば、計算中のためにできた習慣だ

*8:絢香ちゃんごめん。でもBDは予約したから許して

*9:ニコルんとみうちゃんのラブコメみたいなやりとりもあったし

*10:まあ、でも、アニメの絢香ちゃんは少女漫画家だけあって、めっちゃ詩人だ!今のフォーマットに変化する前の花ゆめコミックス、というのがまたニクいね。

*11:ジュンちゃんの親友を「殺す」のは、今の百合アニメは絶対やらないだろうなとは思う。

*12:そのぶん、演出が過剰なくらいだった……と思う。ジュンちゃんの当番回がアニメ批評クラスタの間ですこし話題になっていたのは観測したし、うれしかったけれど、でもあの京アニばりに泣かせようとしてたシーンは成功してなかったよね、なんか、作画が鬼気迫りすぎてて。

*13:担当声優の宮瀬玲奈がめちゃくちゃプレッシャーを受けていたこともむべなるかな。

*14:加えて、比較することでもないけれど、ジュンちゃんの過去編が一番重いので、あの明るい外面を剥がすのはなんともしのびない。

*15:この、美少女め!関係ないけど、学校で「ちょっとかわいいからって調子乗ってる」ってな感じでいじめられたということは、客観的に見るとグループ内で一番用紙が整っているのは絢香ちゃんでは?!と思ってしまった駄目なオタクは私です。ああ、制服姿の眩しいこと……。

*16:ここの被写体深度、よき。

*17:この仁王立ちニコルん、頭身低いせいかめっちゃかわいい、好き。